世界の投資家が注目。なぜ「米国雇用統計」は重要指標なのか?

2022/12/30

著者/ロン横浜

米国雇用統計は、機関投資家のみならず個人投資家にとっても、投資をする上でとても重要度の高い経済指標です。その内容は、株や為替といった金融市場の動きに大きな影響を与えています。米国雇用統計は、なぜそこまで注目されるのでしょうか。その重要性や市場への影響について解説します。

米国雇用統計とは?何がわかる経済指標なのか

米国雇用統計とは、米国労働省が発表する雇用に関する月次データで、雇用サイドから見た米国の経済の状況が把握できます。

米国雇用統計では10数項目が発表されますが、特に注目される数字は「非農業部門雇用者数(NFP - Non Farm Payroll)」や「失業率」です。前者は、農業関連以外の産業で働く人の数や増減をまとめたデータです。後者は、米国内の失業者数を労働力人口(失業者数と就業者数の合計)で割った数値です。

原則、毎月第1金曜日に前月分の統計が発表されるので月次データとしての速報性があります。厳密には毎月12日を含む1週間を対象とし、約16万の企業や政府機関の中から約40万件のサンプルを調査・集計し発表します。発表時間は米国時間の朝8時半です。日本時間では、米国夏時間(サマータイム。3月第2日曜日から11月第1日曜日)の場合は夜21時半、それ以外の時期(冬時間)は夜22時半です。

米国雇用統計のデータがメディアに流れる前後に為替や株が大きく動くことが多く、世界中の投資家にとって重要なイベントになっています。動画などのライブ放送をしているメディアもあるほど、注目されているのです。

FRBが重視する経済統計

なぜ米国雇用統計は数ある経済指標の中でも特に注目度が高いのでしょうか。それは、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策を決める上でとても重視している経済統計だからです。

FRBの役割として特に重要なのは、国民の雇用を最大化することと、物価を安定させることです。FRBが重視する米国雇用統計は、自国の金融政策の方向を左右するのです。米国の21年度の名目GDPは22兆9,961億ドル、世界全体の約24%の水準となります。米国の経済状況は世界市場に大きな影響を与えるため、米国雇用統計は世界の投資家がウォッチする重要イベントなのです。

米国雇用統計と金利や為替との関係

米国雇用統計は単にトレンドを見るのでなく、市場予想との対比で見ることが主流です。

経済調査機関が出した経済予想の平均値を「市場予想(コンセンサス)」といいます。米国雇用統計を見る場合、非農業部門雇用者数や失業率が市場予想に対して「ポジティブ・サプライズ(いい数字)」だったか「ネガティブ・サプライズ(悪い数字)」だったかによって、金融市場に与える影響が異なります。

非農業部門雇用者数は前月比の増減で表し、「前月比●万人増」というように発表されます。失業率は失業者数を労働力人口で割った比率で表し、「失業率●%」というように発表されます。

米国雇用統計の市場予想を基準とした景気の判断

画像=株式会社ZUU 画像=株式会社ZUU
(画像=株式会社ZUU)

雇用者数が市場予想を上回るときや、失業率が市場予想を下回るときは、景気が市場予想より良いことを意味します。一般的には消費が増えるので、企業の売り上げが伸びて業績が向上し、企業価値が高まることで株価は上がる可能性が高いでしょう。景気が好転すると個人や企業の間で資金需要が増えるため、長期金利が上昇する傾向にあります。国家間での金利差が広がると、金利の低い国の通貨を売り、金利が高い国の通貨を買った方が多くの金利を得られるため、相対的に金利の高くなった(高金利の)ドルは買われやすくなります

雇用者数が市場予想を下回るときや失業率が予想を上回るときは、景気が市場の予想より悪いことを意味します。一般的には消費は後退するので、企業の売り上げが減って業績が低下し、企業価値が落ちることで株価が下がる可能性が高いでしょう。需要の減退、長期金利の低下により、ドルが売られやすくなる傾向があります。

  1. 各通貨の信用リスクが同等程度である場合

2022年11月の米国雇用統計を振り返る

2022年12月2日に11月の米国雇用統計が発表されました。非農業部門雇用者数が26万3000人増と市場予想の20万人を上回りました。失業率は予想通りの3.7%、平均時給は前月比0.6%と市場予想の0.3%を上回りました。

非農業部門雇用者数が70万人増に近かった2月頃に比べて落ち着いてきてはいますが、まだまだ景気が底堅いことを示しています。平均時給の上昇はインフレ圧力の高さを示しています。

2022年市場の傾向なら、「FRBの利上げが継続する」との見方で株式市場が下落してもおかしくない数字でした。実際、統計発表後のダウ工業株30種平均は前日終値と比べて一時355ドル下落しました。しかし市場は徐々に切り返し、最終的にはプラス34ドルで終えました。米10年債利回りやドル円も一瞬ヘッドライン(見出し)に反応して、金利上昇、ドル高に振れましたが、一日の最後には前日を小幅に下回る水準で終えています。

11月30日にFRBのパウエル議長が、利上げを減速する時期について「早ければ12月になる」と表明していました。そのため、11月の数字はあまり材料視されなかったのです。

非農業部門雇用者数(前月比)と失業率

画像=株式会社ZUU 画像=株式会社ZUU
(画像=株式会社ZUU)

なお、コロナ禍前の2010~2019年の非農業部門雇用者数は平均18万人増でした。

米国雇用統計は金融政策によって反応が異なる

前述の11月の雇用統計が好例ですが、経済統計はその時々で反応が違います。通常は、米国雇用統計などの経済指標で米国景気の底堅さを確認すると、リスクを取る姿勢が強まり株価が上昇します。つまり「良い話(経済指標のポジティブ・サプライズ)は良い話(株式上昇)」であり、「悪い話(ネガティブ・サプライズ)は悪い話」と言えます。

しかし、2022年は異なる結果となりました。FRBは、米国内のインフレを抑えるために政策金利を通常より早いペースで利上げしました。市場の焦点は、米国の経済動向よりも金利動向でした。したがって、経済指標がポジティブだと、景気の強さを背景にFRBは利上げペースを緩めないと解釈して株価は下落しました。「良い話は悪い話」という相場の見方が広まりました。

ただ11月の動きを見る限り、FRBが利上げペースを落とすなら、「良い話は良い話」に変わり始めたのかもしれません。

雇用統計がいつも同じ反応で動くものではないところが、金融市場の難しいところです。

リスクコントロールに自信がない人にはファンドラップサービスという選択肢も

米国雇用統計は、投資方針を決める大きな1つのヒントなります。特に、米国株をはじめとした国外の資産に分散投資する人なら、必ず確認しておくべき指標でしょう。

しかし、市場の動きは教科書通りの動きと異なることがあり、投資判断に迷うことは少なくありません。長期の資産形成においては上昇局面も下落局面もあることが前提であり、そのような中ではリスクコントロールが重要ですが、「忙しい日々の中で、自分だけで投資判断をすることは難しい」という人もいるのではないでしょうか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のファンドラップサービス「Mirai Value(ミライバリュー)」は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の見通しに基づいた分散投資による長期運用をプロがリスクコントロールしながら行うサービスです。「経済指標の発表やニュースを自身で追いきれない」「自身での投資判断が不安」「投資するために銘柄の勉強や配分比率を考えたりするのが大変だ」という人は、Mirai Valueを活用することを検討してみてはいかがでしょうか。

ロン横浜

ロン横浜

ロン横浜

証券界、主に外資系で30年の経験。日本株、海外株、デリバティブ、投信、債券まで、幅広い範囲での実績を誇る。得意とするのは、小型株、米国株の分析。現在は「この経験を若い投資家に伝えるため」外資系証券仲間とともに投資情報発信中。

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