MUMSS ESG Stories

日本は世界へ 数十兆円規模のビジネスを発信できる
「付加価値ものづくり」の挑戦をささえるESG投資を実現

2023年10月16日

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株式会社パワーエックスは、太陽光、風力、潮力、熱などの自然エネルギーの利活用において、「溜める」「運ぶ」「使う」を統合的にデザインすることで、その爆発的普及を実現しようとする注目のスタートアップです。その先進的なビジョンを実現するために必要なのは、大規模な資金。数十億円規模の資金を複数回にわたって調達した背景には、三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)とのチームワークがありました。

事業のステージに応じたファイナンス方針、設計をサポートいただいた
ESGの“目利き”によるサポート体制が心強い

パワーエックス社が、フィナンシャル・アドバイザー(以下、FA)にMUMSSを選任された経緯をお聞かせください。

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2021年夏、シリーズAラウンド*の資金調達を開始するに当たり、私たちはFAを探していました。シリーズAで調達しようと考えていた目標額はシリーズAとしては大型であり、投資銀行業務を行っている日系の複数の証券会社に当たってみたのですが、なかなか理解を得られないでいました。そうした中、私たちの事業に高い関心を示し、きちんと評価してくださったのが、MUMSSでした。

MUMSSからは、FAについてのご提案をいただき資金調達のアドバイスをいただくだけでなく、グループ会社を紹介頂き、三菱UFJ フィナンシャル・グループ(MUFG)全体としてのサポートを提供してくださいました。エネルギー産業のファイナンスを数多く手掛けられ、日本のエネルギー事情にも精通していらっしゃるMUFGが、グループとしてサポートしてくださるのは大変頼もしく感じました。
最終的にはシリーズAにおいて、三菱UFJ銀行は産業創出の観点から私たちの事業を高く評価してくださり、出資もしてくださいました。

*シリーズAラウンド
投資家がスタートアップ企業に投資する際の投資フェーズの一つ。スタートアップ企業が成長していくに応じて、シリーズA,シリーズB、シリーズCとラウンドを重ねていく。

パワーエックス社は、2022年8月にステージAラウンドを、2023年8月にステージBラウンドを完了し、累計で約152億円の資金を調達しています。この資金調達は、計画通りに進んだのでしょうか。

パワーエックス社はものづくりの会社で、事業開始までに多くの資金を必要とします。その資金調達は、①製品を企画できるか、②製品を製造できるか、③製品を出荷できるか、という3つのレイヤーごとの蓋然性に合わせる形で、タイミングを決定していきました。
私たちが作りたいと思っている製品がマーケットに受け入れられるかどうかを見極める段階で必要な資金の調達がシリーズA、プロトタイプを作った上で、これが量産できるか、需要はあるのかを検討していく段階がシリーズBでした。
シリーズA、Bの資金調達は、最初にMUMSSにお見せした予定表のスケジュール通りに進行しました。調達額も、ここまでの累計ではほぼ予定通りです。事業のグランドデザインを最初に共有し、それに基づいた事業プランを元にMUMSSとともにそれぞれの資金調達の方針を決定し、具体的なファイナンスプランを設計していきました。シリーズAとBの間では負債による資金調達もサポートしてくださるなど、MUMSSがFAとして資金調達プロセスを上手にコントロールしてくださり、パワーエックス社も事業をきちんと進捗させることでここまで予定通りにビジネスを立ち上げることができました。

スタートアップにおいて資金調達と事業進捗は両輪であり、FAと、事業サイドの私たちのデリバリーがうまく噛み合って、こうした結果につながったのだと思っています。

金融機関に対する期待はより一層多様に

今後の事業展開について、どのような計画を立てていらっしゃるのでしょうか。また、その中で、FAに対してどのような期待をしていますか。

今、お客さまからオーダーが入っていて、製品の出荷も始まっています。実際にビジネスが回り出し、事業の「継続」というフェーズを超えていく見通しが立ったことで、これからは事業の「拡大」を目指すフェーズに入っていきます。EV充電器は海外からも強く引き合いがあり、国内にとどまらずグローバルベースで「拡大」を目指していきます。
それに対応し、金融機関とのお付き合いは、エクイティ調達のFAだけではなく、複数の取引や資金調達手段を検討する段階へ移行しています。例えば、ワーキングキャピタルの課題も出てきますし、海外との輸出入に伴う為替対応も必要ですし、海外への進出も検討していければと思っております。また、出資していただいた株主に対してリターンを返していくことも必要になりますので、様々な局面で、MUMSS、MUFGとご相談したいと考えているところです。

スタートアップ企業とFAは、どのような関係でいることが望ましいとお考えですか。

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MUMSSを最初に訪ねたとき、パワーエックス社は社員4人の小さな会社でした。今、社員数は90人まできましたが、MUMSSはその間ずっと、同じチームの方々で、同じ対応をしてくださり、小さな会社の要望にしっかりと応えてくれました。それは、経営者にとって大変ありがたいことでした。
時には率直な議論をかさねる場面もありますが、お互いの立場を考えれば、それは当たり前のことです。むしろ、少し困ったことや判断に迷うことが出てきたときに、とにかく一回相談できる相手として、MUMSSのチームの方々を信頼していました。
外国では、投資銀行がそういう付き合い方をしてスタートアップ企業を育てていくということがあると理解しています。ところが、国内でそうしたケースはなかなかないようです。どんな相談にも乗ってくれるようなFAを、多くのベンチャーが求めているのではないかと思います。

「付加価値ものづくり」のスタートアップがもっとたくさん出てきてほしい

日本のスタートアップ企業への投資拡大が課題とされる中、パワーエックス社の資金調達の成功は大きなインパクトがあったと思いますが、伊藤社長はどのように捉えていらっしゃいますか。

私は、「投資資金が必要だが、最初からスケールが大きく、GDPに貢献できる製造業」のスタートアップが、日本にもっとたくさん出てきてほしいと思っています。
2000年以降、中国では実にさまざまなものづくりスタートアップ企業が生まれていて、時価総額で数十兆円にもなる企業が何社か出てきています。アメリカでも、テスラのような時価総額数十兆円の会社がいくつか生まれています。

2000年以降の日本で成功したスタートアップは、いくつもあると思いますが、なかなか数十兆円の会社は出てきません。それはなぜかといえば、日本でものづくりのスタートアップが育っていないからだと私は考えています。
ものづくりは、世界中にものを売っていくことができるので、大きく成長できるし、GDPにも貢献できるのです。テスラを見れば、それがお分かりいただけるでしょう。ソフトウェアをベースとした業種ではなかなか海外進出は難しいように感じています。

ここで思い返してほしいのですが、ものづくりは日本が一番得意とする産業だったはずです。ソニーもトヨタもパナソニックも、昔は皆スタートアップでした。ものを作り、世界中に売りに行って、日本は経済成長できたのです。
ところがなぜか、2000年頃からスタートアップといえばアプリ、EC、SaaSとなり、今でいえば、AI、Web3.0となってしまっています。こうした産業は、地方都市でも多くの雇用を生み出し、GDPを押し上げる力のあるものづくり産業に比して、都市で完結し、雇用も比較的少なくて済む産業で、雇用・GDPへの貢献度合いは低いのではないかと思っています。
そうした潮流の中で、パワーエックス社が成功すれば、投資家もVCも「ものづくり、いけるじゃないか」「じゃあ、ものづくりに金を出そう」と思ってくれるのではないでしょうか。そうなれば、「車を作りたい」「飛行機を作りたい」「新しい発電所を作りたい」と考えている起業家の元に資金が届きます。それが、スタートアップ支援になり、産業育成になっていくのです。

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これから日本が本当に力を入れるべきは「付加価値ものづくり」です。だからこそ、何としてでもパワーエックス社の事業を成功させ、後に続くスタートアップ企業のための道を切り開いていかなければならないと考えています。
パワーエックス社が成功した後、MUMSSには、このパターンをいろいろな会社に広げていただいて、スーパーベンチャーをたくさん育成してほしいと思っています。我々のようなスタートアップには、長期的視点に立ちゴールに向かって伴奏する存在が必要不可欠ですから、「産業育成に貢献するMUMSS」の存在意義はますます大きくなっていくと思っています。

【企業情報】
株式会社パワーエックス
2021年3月設立。「永遠に、エネルギーに困らない地球。」をビジョンに掲げ、自然エネルギーの爆発的普及を目指す次世代型エネルギーカンパニー。日本最大級となる大型蓄電池組み立て工場「Power Base」を岡山県玉野市に建設し、定置用蓄電池、蓄電池型超急速EV充電器、船舶用電池などの製造、販売を行う。2023年9月、EV超急速充電器の出荷が始まった。さらに、クリーンエネルギーを海上輸送する世界初の電気運搬船「Power ARK」の開発にも取り組んでおり、2025年中の初号艇完成を目指している。


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伊藤 正裕さん

株式会社パワーエックス
取締役 代表執行役社長CEO

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MUMSS担当者より:スタートアップ・アクセラレーション室長 
高橋 照典
スタートアップの成長をさまざまな手法でサポートしていく

私たちスタートアップ・アクセラレーション室(SAT)は、パワーエックス社の事業の「テーマ性」を非常に高く評価しました。一つは、再生可能エネルギーへシフトしていく時代の要請に応える技術であること、もう一つは、製造業、ディープテックで雇用を生み出しパラダイムシフトを起こすようなスタートアップが日本にはまだ生まれていない中で、パワーエックス社をサポートすることは極めて大きな意義があると考えたことでした。

伊藤社長はまさに前例のないことに挑戦しようとしているのであって、それを一般的なこれまでのスタートアップの事例を当てはめることは非常に困難です。私たちは、何をクリアすればこのコンセプトを事業化できるのかという発想で、パワーエックス社をサポートしてきました。

当社は、スタートアップを基点にしたエコシステムをつくっていきたいと考えています。そして、スタートアップのサポートに特化したチームとして2019年に新設されたのが、SATです。SATは、資金調達や、IPO、M&Aなど、さまざまな手法を使ってスタートアップの成長をサポートしていくという、ユニークな機能を持っています。スタートアップに特化し、IPO後も変わらずサポートを続ける機能は当社ならではのものではないかと考えています。

当社はMUFGとモルガン・スタンレーのジョイントベンチャーであり、圧倒的なソリューションとリーチの豊富さを誇っています。特に、グローバルなリーチ、知見を持っていることの意味は小さくありません。例えば、パワーエックス社のようなビジネスは日本では初めてかもしれませんが、ヨーロッパには事例があり、モルガン・スタンレーにサポート実績があります。その知見を活用することで、実際的で実効性の高いアドバイスをすることができています。また、間接金融という点でもグループ内に国内最大の三菱UFJ銀行があります。グループのポテンシャルを活用することで、より広範囲のニーズにソリューションを提供できます。

スタートアップ企業はその革新的な技術で社会課題の解決を目指しており、その意味で、スタートアップ支援はESGと大きく重なる部分があります。当社のESG推進の一翼を、私たちSATもスタートアップ支援という領域で担っていきたいと考えています。